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<ノベル>
この世界にこれてよかった
この街にこれてよかった
『知らない』なんてことはない
これがあれば誰もが『自分を知ることができる』
それが自分自身であっても‥‥
〜自己紹介?〜
「これを見ながら話してたよな? よし、やろう」
マリウスはカラカラと動く古い映写機のようなものに向かって気合をいれた。
彼女が思い出すのは常に『未来』であり、『過去』ではない。
だから、忘れない思い出のためにこの映写機に自分を残したかった。
『記憶』には残らない『記録』として‥‥。
「自己紹介したっけか。アタイはマリウス、見ての通りの盗賊で周りはアタイを女というけどどっちでもいいよ」
映写機を動かす人に向かって話すようにマリウスは自分のことを覚えている範囲で話した。
「この先、アタイは盗みをした。みんなに怒られた。笑った。泣いた。いろんなことが先に起こりいろんな人と出会った」
日本語がおかしいが、間違いではない。
彼女にとって、これが普通であり事実未来に起こりえることだ。
「それがアタイにとってとっても嬉しいことだ。寂しくても誰かが助けてくれるとわかってた。困っていてもなんとかなるとわかってた」
マリウスは笑顔のままに今の自分の気持ちを話す。
この日、この時しかない『自分』だ。
「でも、こうしてこんな風に自分を残そうとしているのはわからなかった。どうしてこうなったのかももうわかんない」
少しずつマリウスの中の記憶がズレはじめる。
現在進行形のことでなければそれは過去だ。
何かを思い頼んで今、撮影しているとしたら何かを思ったことはすでに過去となるのである。
だから、マリウスは撮影を必要だからしているとしか知らなかった。
「アタイは話していた。一杯一杯話していた」
時間が流れないように願うも、頭の中の記憶が疾風のように流れ出す。
「未来のアタイにできることを話そうと思った。未来のアタイは‥‥」
目を閉じ、静かに開くとマリウスは深呼吸をした。
「いや、未来のアタイだけじゃない‥‥たぶん、そう‥‥これから会った仲間たちにも関係することだった」
思い出したという感じでマリウスは未来のビジョンの話そうとする。
普通の人にとって過去が不変であるように、マリウスにとって不変的な未来のことを‥‥。
〜今より先の、限りある未来〜
「これから話すことはこの先に会ったことだ。いつとは言わないけどな?」
カメラに向かってにへらと気の抜けた笑顔をマリウスは向けた。
「まず、アンタらに出会えてアタイは良かった。何でかは知らないけどそう思った」
「空から光が落ちてきて、世界が滅ぶと思った。けど、それに足掻きたかった」
予言めいたことをマリウスは真剣な目で話し続ける。
「そのとき出会った仲間は大切だ。アタイの人生の中で、一番の仲間だ‥‥」
マリウスはそう前置きをした後、一人一人名前を挙げた。
銀幕市の中で脅威に立ち向かい、未来を変えた仲間の名前を‥‥。
この先、忘れてしまうかもしれない戦友の名前をはっきりと口にした。
「こんなアタイと共に戦ってくれたこと感謝する‥‥だから、宝石や貴金属を盗んだのは少し見逃してくれ」
ビデオに向かってマリウスはペコリと頭を下げるが、その後にちょっとだけ顔を上げてウィンクをする。
手癖が悪いのは盗賊としての本領でもあるため、火事場泥棒は仕方がないとマリウスは説明をした。
いいわけともいうが、そのへんは気にしない。
マリウスはそういう人物だった。
「もう一つ、重大な未来があった。アタイが消えるときの話だ‥‥フィルムに戻るのはさっきの話よりも未来だ。どうしようもないことでアタイは死んだ。それが必然だろうし、アタイはどうしてもやっちまうんだ」
自分の死ぬときに関する未来をマリウスは抽象的に話し出す。
あえて抽象的に話すのは心配をかけたくないというマリウスなりの優しさなのかもしれない。
過去の過ちや、嫌な夢を笑い飛ばすかのようにケラケラと彼女は笑い続けた。
「どうしようもないと思うけどさ、それがアタイだろうし、わかっているから不安もなかった。そのとき、アタイはすっきりしているのだけは確かだ」
心配する仲間がいるかわからないが言葉はマリウスの口から溢れ出てくる。
変えられない未来なのだから、自分は平気だが自分を知っている人が悲しむのは見たくなかった。
この銀幕市という町に来て、芽生えた思いである。
「どういうことが起ったかは言わない。それを止めようとするミンナを巻き込みたくない‥‥といっても、ミンナはアタイから聞いて助けに来たけどな」
苦笑をしながら語るマリウスの顔は伏せ目がちで、両肩が下がってた。
嬉しい反面、それでも死んでしまう事実が悲しいのだろう。
「湿っぽくてアタイらしくないね? 未来の話はこれで終わった。だから、覚えておいて欲しい‥‥ここにいるアタイという存在をさ」
両手を腰にあて、一度胸を張ったマリウスはトンと自分の胸をたたくのだった。
〜最後は自分に‥‥〜
「最後はアタイからアタイに対して言葉を言ったから、それを伝える」
頭を軽く掻いたあと、マリウスは顔をカメラへと向けなおす。
テープも残り少なくなってきたとのことで、自分に対してメッセージを残すことにしたのだ。
「忘れたくない友人ができた。だから、このフィルムを何度も見れるようにもった。どうしてもっているのか忘れてもいいからとにかく肌身離さず持った」
確定した未来として、このフィルムを持った意味を繰り返し自分に対して伝えだす。
持っていることがわかっていたとしても、大切なものであることを忘れているのだから、思い出して欲しかった。
「このフィルムを見るたびにアタイは感動した。忘れたはずのアタイがそこにいるからだ。こんなことはきっとアタイの世界ではできない」
カメラのレンズに食いつくように近づきながらマリウスは話し続ける。
「アタイはこの街に来て少し変わった。未来が変わることを知った。見えない未来ができた」
少し落ち着きを取り戻したのかマリウスはカメラから離れて周りを見回した。
撮影場所は銀幕市自然公園であり、マリウスの後ろには休日を楽しむ人々の姿もある。
『忘却の森』や『ハムシーンのピラミッド』など大きなムービーハザードが起きる場所でもあり、不確定要素の高い場所だ。
「だから、もしかしたらアタイはフィルムに戻らない『かもしれない』。そのことをもう一度思い出して欲しい」
確定した未来の話をしながらも、この街の不思議な可能性を頼るような一言をマリウスは告げた。
そこでフィルムが切れて、撮影は終了する。
白くなった画面を見ながら、マリウスは涙を流していた。
両手で顔を覆い、ぐしゃぐしゃになるほどに泣く。
市役所の対策課のおじさんは困っていた。
【終末の日】の前に撮影し、ポケットに突っ込まれていた宝石を出していたときに見つけたフィルムを今再生し終えたのである。
「アタイ、こんなこといってる‥‥忘れていたのにしっかりアタイがいる‥‥」
いくつか知らない名前を聞かされたが、それでも自分がいったのだから関わったのだろうとマリウスは感じていた。
本当に感謝しなければならない
この世界に来たことを‥‥
この街で出会えたことを‥‥
そして、このように自分をとってけることを‥‥
最後にフィルムで言伝をしてくれた、昔の自分に精一杯のありがとうを‥‥
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クリエイターコメント | どうも、初めまして橘真斗です。
個人企画に参加していただきありがとうございました。 マリウスさんは勝手に動いてくれる方で、あまり苦労はしませんでしたが、表現や心情がちょっと難しかったですね(苦笑)
自分から自分に対するビデオレターでしたが、記憶を失う彼女にとって大切なものとなってくれると嬉しいです。
この世界で関われる時間は少ないですが依頼参加した皆さんとも是非是非おこしください。 要望がありましたら枠を拡大させていただきます。
それでは運命の交錯する日までごきげんよう |
公開日時 | 2009-04-27(月) 18:30 |
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